36協定45時間6回とは?労働時間の上限規制を幅広く調査!

労働基準法における時間外労働の上限規制は、働き方改革関連法によって大きく変化しました。その中でも「36協定45時間6回」という規定は、企業の労務管理において非常に重要な意味を持っています。この規定を正しく理解していなければ、知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまう可能性があります。

特別条項付き36協定を締結している企業では、年間6回までであれば月45時間を超える時間外労働が認められていますが、この「6回」という回数制限の意味や運用方法について、正確に把握できているでしょうか。また、この制限を超えた場合にどのような法的リスクが生じるのか、企業としてどのような対策を講じるべきなのかについても、明確に理解しておく必要があります。

本記事では、36協定における45時間6回という規定の詳細について、法的根拠から実務上の注意点、違反した場合のリスク、適切な管理方法まで、幅広く解説していきます。労務管理担当者はもちろん、経営者や人事部門の方々にとっても、必ず知っておくべき重要な情報をお届けします。

36協定45時間6回の基本的な仕組みと法的根拠

36協定における時間外労働の原則的上限

労働基準法第36条に基づく労使協定、いわゆる36協定を締結することで、企業は法定労働時間を超えて労働者を働かせることが可能になります。しかし、この時間外労働には厳格な上限が設けられており、原則として月45時間、年360時間を超えることはできません。

この原則的上限は、働き方改革関連法により2019年4月から大企業に、2020年4月からは中小企業にも適用されるようになりました。それ以前は厚生労働大臣の告示による基準でしたが、法改正により罰則付きの法的義務となったため、企業はより厳格な遵守が求められるようになっています。

月45時間という上限は、1日あたり約2時間の時間外労働に相当します。これは労働者の健康確保と仕事と生活の調和を図るために設定された基準であり、企業はこの範囲内で時間外労働を管理することが基本となります。

特別条項における45時間超過6回までの規定

臨時的な特別の事情がある場合に限り、特別条項付き36協定を締結することで、月45時間を超える時間外労働が認められます。ただし、この特例が適用できるのは年間6回までという明確な制限があります。

「年間6回まで」という規定は、1年を通じて月45時間を超える月が6か月を超えてはならないという意味です。つまり、36協定の対象期間である1年間のうち、半分の月は必ず月45時間以内に時間外労働を収めなければなりません。

この6回という回数制限は、特別条項の「臨時的な特別の事情」という要件と密接に関連しています。恒常的に長時間労働が発生している状態は、もはや「臨時的」とは言えないため、年間の半分以上は原則的上限を守ることが求められているのです。

法改正による規制強化の背景と目的

2019年の働き方改革関連法施行により、時間外労働の上限規制は大きく変わりました。それまでは特別条項を設ければ事実上無制限に時間外労働を命じることが可能でしたが、法改正後は罰則付きの上限が設けられました。

この規制強化の背景には、過労死や過労自殺の社会問題化があります。長時間労働による健康被害が深刻化する中、労働者の生命と健康を守るための実効性ある規制が必要とされました。厚生労働省の調査によれば、月80時間を超える時間外労働は脳・心臓疾患の発症リスクを著しく高めることが明らかになっています。

また、少子高齢化が進む日本において、ワークライフバランスの実現は喫緊の課題です。長時間労働を是正することで、育児や介護との両立を可能にし、多様な人材が活躍できる社会の実現を目指しています。45時間6回という規定は、こうした社会的要請を反映した結果として設けられた制度なのです。

対象期間と起算日の考え方

36協定における「年間6回まで」の「年間」とは、36協定で定めた1年間の対象期間を指します。この対象期間は、必ずしも暦年(1月1日から12月31日)や年度(4月1日から3月31日)である必要はなく、企業が任意に設定できます。

対象期間の起算日は、36協定の届出時に明確に定める必要があります。例えば、7月1日を起算日とした場合、その年の7月1日から翌年の6月30日までが1つの対象期間となります。この期間内で45時間を超える月が6回を超えないように管理しなければなりません。

対象期間の設定にあたっては、企業の繁忙期や業務の特性を考慮することが重要です。例えば、決算期に業務が集中する企業であれば、その時期を含む形で対象期間を設定することで、より効果的な労働時間管理が可能になります。ただし、一度設定した対象期間は、次回の36協定更新まで変更できないため、慎重な検討が必要です。

36協定45時間6回を超えた場合の実務上の問題点

労働基準法違反による罰則の内容

36協定で定めた時間外労働の上限を超えた場合、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。これは非常に重い刑事罰であり、企業にとって深刻なリスクとなります。

この罰則は、違反した企業だけでなく、実際に違反行為を行った経営者や管理職個人にも適用される可能性があります。労働基準法違反は両罰規定が適用されるため、法人と行為者の双方が処罰対象となり得るのです。つまり、人事部長や工場長などの管理職が個人として刑事責任を問われるケースもあります。

さらに、労働基準監督署による是正勧告や指導の対象となります。是正勧告を受けた場合、企業は速やかに違反状態を改善し、報告書を提出しなければなりません。改善が見られない場合や悪質な違反の場合は、送検される可能性も高まります。実際に、厚生労働省は悪質な違反事例について企業名を公表する取り組みも行っています。

企業の社会的信用とブランドイメージへの影響

労働基準法違反が明るみに出た場合、企業の社会的信用は大きく損なわれます。特に昨今は、SNSやインターネットを通じて情報が瞬時に拡散される時代であり、一度失った信用を回復することは極めて困難です。

厚生労働省が公表する「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に企業名が掲載されれば、その影響は計り知れません。既存顧客との取引停止、新規顧客の獲得困難、株価の下落など、経営に直結する深刻なダメージを受ける可能性があります。特にBtoC企業の場合、消費者からの不買運動に発展するケースもあります。

また、採用活動にも大きな影響が出ます。労働環境の悪い企業として認識されれば、優秀な人材の確保が困難になります。特に若い世代は企業の労働環境を重視する傾向が強く、ワークライフバランスを実現できない企業は就職先として敬遠されます。人材確保が困難になれば、企業の成長力や競争力の低下につながり、長期的な経営リスクとなります。

労働者の健康被害と企業の安全配慮義務違反

月45時間を超える時間外労働が6回を超えて恒常化すると、労働者の健康に深刻な影響を及ぼします。厚生労働省の過労死認定基準では、発症前2~6か月間にわたって月平均80時間を超える時間外労働がある場合、業務と発症の関連性が強いと評価されます。

企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があり、労働者の生命および健康を危険から保護するよう配慮する義務を負っています。この義務に違反して労働者が健康被害を受けた場合、企業は損害賠償責任を負うことになります。過労死や過労自殺が発生すれば、数千万円から億単位の賠償金を支払うケースも珍しくありません。

さらに、長時間労働は労働者のモチベーション低下や生産性の低下を招きます。疲労が蓄積した状態では集中力が低下し、ミスや事故のリスクが高まります。製造業であれば労災事故、サービス業であれば顧客対応のミスなど、業務品質の低下にもつながります。結果として、企業の業績にも悪影響を及ぼすことになります。

労使関係の悪化と人材流出のリスク

36協定の上限を超える違法な長時間労働が続けば、労働者の不満は高まり、労使関係が悪化します。労働組合がある企業では、団体交渉の議題となり、場合によってはストライキなどの争議行為に発展する可能性もあります。

労働者が労働基準監督署に申告を行うケースも増えています。労働基準監督署への申告があれば、監督官による臨検調査が実施され、企業の労働時間管理の実態が詳細に調査されます。その過程で、他の労働基準法違反が発覚することもあり、企業にとっては大きなリスクとなります。

また、優秀な人材が退職してしまうリスクも無視できません。長時間労働に耐えられない労働者や、より良い労働環境を求める労働者は、他社への転職を選択します。特に専門性の高い人材や経験豊富な人材が流出すれば、企業の競争力は著しく低下します。さらに、退職した労働者が転職サイトやSNSで企業の労働環境について否定的な情報を発信すれば、企業の評判はさらに悪化します。

36協定45時間6回を適切に管理するための具体的な対策

労働時間の正確な把握と記録の重要性

労働時間管理の第一歩は、すべての労働者の労働時間を正確に把握することです。厚生労働省のガイドラインでは、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間記録など、客観的な方法で労働時間を記録することが求められています。

自己申告制を採用している企業もありますが、自己申告と実際の労働時間に乖離がないか、定期的に実態調査を行う必要があります。特に、サービス残業の発生を防ぐため、上司による労働時間の確認や、パソコンのログ記録との照合などのチェック体制を整備することが重要です。

労働時間の記録は、法定の保存期間である5年間(当分の間は3年間)保管しなければなりません。これらの記録は、労働基準監督署の調査や労働紛争が発生した際の重要な証拠となります。デジタル化されたデータであっても、改ざんができないシステムで管理し、定期的なバックアップを取ることが推奨されます。

勤怠管理システムの導入と活用方法

現代の労働時間管理において、勤怠管理システムの導入は必須といえます。クラウド型の勤怠管理システムを利用すれば、リアルタイムで各労働者の時間外労働時間を把握でき、月45時間に近づいている労働者を早期に発見できます。

多くの勤怠管理システムには、時間外労働が一定時間に達した際にアラートを発する機能が搭載されています。例えば、月40時間に達したら本人と上司に通知する設定にしておけば、45時間を超える前に対策を講じることができます。また、年間で既に何回45時間を超えているかを自動集計する機能があれば、6回という上限の管理も容易になります。

システム導入にあたっては、単に導入するだけでなく、管理職や人事担当者が定期的にデータをチェックし、必要に応じて業務配分の見直しや人員の補充などの対策を講じる運用体制を構築することが重要です。システムはあくまでツールであり、それを効果的に活用するための人的な管理体制が不可欠です。

業務効率化と人員配置の最適化

時間外労働を削減するためには、業務そのものの見直しが必要です。不要な業務や非効率な業務フローを洗い出し、業務の簡素化や自動化を進めることで、労働時間を削減できます。

例えば、定型的な事務作業はRPAツールを活用して自動化する、会議の時間を短縮する、報告書の様式を簡素化するなど、様々な効率化の手法があります。また、業務のデジタル化を進めることで、ペーパーレス化や情報共有の効率化が図れます。クラウドツールを活用すれば、在宅勤務やリモートワークも容易になり、通勤時間の削減にもつながります。

人員配置の最適化も重要です。特定の部署や個人に業務が集中している場合、他部署からの応援体制を構築したり、派遣社員やアルバイトを活用したりすることで、負担を分散できます。繁忙期が予測できる場合は、事前に人員を補充する計画を立てることも有効です。業務の平準化を図ることで、特定の月だけ時間外労働が急増する事態を防ぐことができます。

管理職への教育と意識改革の推進

労働時間管理の実務を担うのは現場の管理職です。しかし、管理職自身が労働時間管理の重要性や法的リスクを十分に理解していないケースが少なくありません。そのため、管理職に対する定期的な教育研修が不可欠です。

研修では、36協定の基本的な仕組み、45時間6回の規定の意味、違反した場合のリスク、具体的な管理方法などを体系的に学ぶ機会を設けます。また、労働時間管理は単なる法令遵守の問題ではなく、部下の健康を守り、組織のパフォーマンスを高めるためのマネジメントの一環であることを理解させることが重要です。

意識改革も必要です。従来の日本企業には「長時間働くことが美徳」という価値観が根強く残っており、管理職がその価値観を持ち続けていれば、部下の労働時間削減は進みません。評価制度を見直し、労働時間の長さではなく成果で評価する仕組みを構築することで、管理職の意識を変えていくことができます。ノー残業デーの設定や、定時退社の推奨など、組織全体で労働時間削減に取り組む文化を醸成することが求められます。

特別条項の適用事由の厳格な運用

特別条項を適用して月45時間を超える時間外労働を命じる場合、「臨時的な特別の事情」が存在することが前提です。この「臨時的な特別の事情」とは、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要がある場合を指し、恒常的な業務による時間外労働は該当しません。

36協定の届出の際、特別条項の適用事由を具体的に記載する必要があります。例えば、「決算業務」「納期のひっ迫」「大規模なクレーム対応」「システムトラブルへの対応」など、実際に起こり得る具体的な事由を明記します。そして、実際に特別条項を適用する際は、本当にその事由に該当するかを厳格にチェックする必要があります。

特別条項の濫用を防ぐため、特別条項を適用する際の社内手続きを明確化することも有効です。例えば、部門長の申請に基づき人事部門が審査し、一定の役職者が承認する仕組みにすることで、安易な適用を防ぐことができます。また、特別条項を適用した月については、その理由と時間外労働時間を記録し、後から検証できるようにしておくことが推奨されます。

労働者の健康管理とメンタルヘルス対策

月45時間を超える時間外労働を行った労働者に対しては、医師による面接指導を実施する努力義務があります。さらに、月80時間を超えた場合は、本人の申出があれば面接指導を実施する法的義務があります。これらの面接指導を確実に実施し、必要に応じて就業上の措置を講じることが重要です。

定期健康診断の結果も労働時間管理と関連付けて分析することが有効です。長時間労働をしている労働者に健康上の問題が見られる場合、労働時間の削減や業務内容の見直しを検討する必要があります。産業医がいる企業では、産業医と連携して労働者の健康状態を把握し、適切な措置を講じる体制を構築します。

メンタルヘルス対策も重要です。長時間労働はストレスの主要因となり、うつ病などのメンタルヘルス不調のリスクを高めます。ストレスチェックを定期的に実施し、高ストレス者には産業医面談を勧奨するなど、早期発見・早期対応の仕組みを整備します。また、相談窓口を設置し、労働者が気軽に相談できる環境を作ることも効果的です。

36協定の適切な作成と労使協議の充実

36協定は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で締結します。この労使協定の締結プロセスにおいて、十分な協議を行うことが重要です。

協議の際には、前年度の時間外労働の実績を分析し、どの部署でどの程度の時間外労働が発生していたか、45時間を超えた月は何回あったかなどを共有します。その上で、今年度の業務計画や人員配置を踏まえ、適切な時間外労働の上限を設定します。特別条項については、本当に必要かどうか、適用事由は適切かなどを真摯に検討します。

36協定の内容は、労働者に周知する義務があります。社内イントラネットへの掲載、掲示板での掲示、社員説明会の開催など、すべての労働者が内容を理解できるような周知方法を選択します。労働者が36協定の内容を理解していれば、自身の労働時間に対する意識も高まり、時間外労働の抑制につながります。

36協定45時間6回に関する理解と適切な労務管理についてのまとめ

36協定45時間6回の重要ポイントまとめ

今回は36協定45時間6回の規定とその実務上の重要性についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。

・36協定の原則的上限は月45時間・年360時間であり、これは法的義務として厳格に遵守しなければならない

・特別条項付き36協定を締結すれば月45時間を超える時間外労働が可能だが、年間6回までという明確な制限がある

・「年間6回まで」とは36協定の対象期間(1年間)において45時間を超える月が6か月を超えてはならないという意味である

・この規定に違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性がある

・違反が明るみに出れば企業の社会的信用が失墜し、採用活動や取引関係に深刻な影響を及ぼす

・長時間労働は労働者の健康被害を引き起こし、企業は安全配慮義務違反による損害賠償責任を負うリスクがある

・適切な労働時間管理には客観的な方法による労働時間の記録と勤怠管理システムの活用が不可欠である

・業務効率化と人員配置の最適化により、そもそも時間外労働を削減する取り組みが重要である

・管理職への教育研修を通じて労働時間管理の重要性を理解させ、組織全体の意識改革を進める必要がある

・特別条項の適用は「臨時的な特別の事情」がある場合に限られ、その事由を厳格に審査する運用体制が求められる

・月45時間を超える労働者には医師による面接指導を実施し、健康管理を徹底することが重要である

・36協定の締結にあたっては労使で十分な協議を行い、実態に即した適切な内容とする必要がある

・労働時間の実績データを定期的に分析し、問題が発生する前に予防的な対策を講じることが効果的である

・デジタル技術を活用した業務の効率化やリモートワークの推進により、労働時間削減の可能性が広がっている

・労働時間管理は法令遵守だけでなく、労働者の健康確保と企業の持続的成長のために不可欠な経営課題である

36協定45時間6回という規定は、単なる形式的な制約ではなく、労働者の健康と生活を守るための重要な仕組みです。企業には適切な労働時間管理を実現する責任があり、そのためには経営層から現場の管理職まで、組織全体で取り組む必要があります。今回ご紹介した内容を参考に、自社の労働時間管理体制を見直し、より良い労働環境の実現を目指していただければ幸いです。

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